喰われる側の戦略 カンジキウサギ繁殖術

2020年01月25日

喰われる側の戦略 カンジキウサギ繁殖術

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Photo by - Dave Doe - Snowshoe Hare
今回は、北アメリカの雪原に暮らすカンジキウサギのお話です。凍死、餓死、肉食獣の襲撃・・・。厳しい環境を生き残れる者はごくわずか。それでも早産多産の戦略をとり、子孫繁栄を続けてきました。爆発的に増えるため、カンジキウサギが環境へ与える影響も甚大です。植物を食い尽くし、様々な肉食獣のエサとなる。食物連鎖の流れを大きく変える存在なのです。



雪靴を履いたウサギ

“カンジキ”とは雪国で使用する靴のこと。水蜘蛛(忍者が水面を渡るときに使う道具)のような見た目をしています。これを履けば、足と地面の接する面積が増えるため、雪に足を取られなくなるのです。深い雪のうえを素早く歩ける・・・雪国ならではの道具ですね。

カンジキウサギもまた、自前の靴で雪原を走り回っています。他のノウサギよりも足が太くて短いので、体感バランスを取りやすく、地面と接する面積も大きいのです。加えて防寒対策もバッチリ。足の裏までビッシリ生える毛が、雪の冷たさを通しません。深く積もった雪もなんのその。一日に5マイル(約8q)を移動し、エサを探し回ります。

カンジキウサギには冬眠の習慣がありません。凍死しないためにも、たくさん食べて体温を上げなければなりません。ところが寒さが厳しくなれば、食べ物を見つけづらくなるのが道理です。木々は葉を落とし、地面の草も雪に埋もてしまいますからね。しかし喰わねば死んでしまう。そこでカンジキウサギは苦肉の策に走りました。完全な草食を諦め、肉も食べるようになったのです。小動物の肉を好み、共食いも躊躇いません。時には天敵ヤマネコを食べるカンジキウサギの姿が目撃されています。

肉を食べるとはいえ、カンジキウサギが他の動物を狩ることは不可能です。見た目通り、か弱い存在ですからね。カンジキウサギが食べるのは腐肉−放置された動物の死骸です。凍死してしまったり、エサが見つからずに餓死してしまったり・・・厳冬が訪れると、多くの動物が命を落とします。カンジキウサギはそういった死骸を見つけてはかじり、命をつなぐのです。「うさぎは草食」という常識をひっくり返すのですから、どれだけ厳しい環境で暮らしているのか・・・伝わってくるものがありますね。



冬化粧でかくれんぼ

カンジキウサギの毛皮は見事に真っ白。防寒のみならず、雪に溶け込んでカモフラージュになる、という重要な役割も果たします。短足が災いするのか、カンジキウサギは走るのがあまり得意ではありません。天敵を対策するには、かくれんぼでやり過ごすのが無難なのです。

危険を察知すると、カンジキウサギは身じろぎひとつしなくなります。肉食獣は動体視力に優れるため、わずかでも動いてしまえば気づかれてしまいます。代わりに色覚はいまいち。雪に溶け込んだカンジキウサギを色で判別できません。動かなければ安全なのです。相手の視覚を把握してやり過ごすなんて、やり手の隠れん坊ですよね。

冬の間は真っ白な毛皮も、雪解けを迎えると茶色い毛皮へ生え変わります。そして秋から冬にかけて、また真っ白な毛へ生え変わるのです。生え変わりが完了しない間、あるいは生え変わる時期が早すぎると、困った事態に陥ります。カモフラージュが上手くいかないのです。周囲の色合いに溶け込めず、天敵に発見されてしまいます。カンジキウサギにはやり過ごす習性が染みついているため、発見されても隠れたフリを止められません。見つけやすく、逃げ出そうともしない。狩る側からすれば、あまりにも美味しい獲物となってしまうのです。

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Photo by - pxfuel
春先ver ちなみに耳先と足先から生え変わります


10年計画 増えつ減りつつ

カンジキウサギの周りは敵だらけです。ヤマネコ、キツネ、コヨーテ、タカ・・・生まれたばかりの子供は、リスにも襲われる始末。カンジキウサギの85%が生まれた年を越せないというのですから、子孫繁栄はなかなか厳しそうですね。

ところがカンジキウサギは爆発的に数を増やしていきます。妊娠期間が37日と短いため、年に2、3回の出産が可能。加えて、1度に最大で18匹も生まれるのですから、増えるのも当然でしょう。どれだけ喰われようとも、それを補うように増え続ける。イタチごっこを続けるのです。

放っておけば延々と増え続けそうなものですが、ものには限度があるようです。個体数がピークを迎えると、今度は急速に減っていくのです。奇妙なことに、増加・減少の移り変わりは10年周期で、規則正しく続きます。なぜカンジキウサギは増え続けることができないのでしょうか?

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Photo by - Lamiot - Milliers fourrures vendues en environ 90 ans odum 1953
個体数の増減を示すグラフ。増えては減って・・・を10年周期で繰り返します。ちなみに黒い棒線はヤマネコの個体数。2〜3年のタイムラグはあるものの、同じように増減します。ヤマネコがカンジキウサギをエサにしている証明にもなりますね。


1960年代、ロイドキース氏が取り組んだ研究によると、カンジキウサギが減少する要因は「食糧不足」と「被食率」にあるといいます。

食糧不足は当然あるでしょう。カンジキウサギが増えすぎれば、あたりの植物は食い尽くされてしまいます。エサが不足し、やがて餓死者が続出することに。生存者も栄養を子育てに充てる余裕はないでしょうから、自然と子供を産まなくなります。一度減り始めると、急速に数を減らしてしまう、負の連鎖が始まるわけです。

ただ、食糧不足だけでは説明できない現象も起こりました。植物が回復した後も、カンジキウサギは減少し続けたのです。そこでキース氏は、食料不足だけでなく、被食率も影響すると仮説を立てました。なるほど。栄養不足で動きが鈍れば、天敵に捕らわれる者も増えることでしょう。病気にたおれる者も出てきますね。カンジキウサギは減少するでしょうが、その分、肉食動物たちは数を増やします。増えた肉食動物によって、さらにカンジキウサギが襲われやすくなる、という流れですね。

後に、ルディ・ブーンストラ氏が提唱したストレス仮説も加わります。周囲に肉食獣が多い(ストレスが多い)場合、そもそもカンジキウサギは子供を産まなくなる、という仮説です。

肉食獣が多い地域では、カンジキウサギの糞便に含まれるコルチゾールの値が高くなる傾向にあったといいます。コルチゾールとは、ストレスを感じると増加するホルモンのこと。肉食獣の存在がストレスとなり、そのストレスが出産を妨げる、という流れができるわけです。そして驚くことに、ストレス効果は次世代へ受け継がれるのだとか。つまり肉食獣が減少するまで、カンジキウサギはストレスを保持し続け、あまり繁殖しなくなるわけです。

カンジキウサギが減少すれば、肉食獣は食糧不足に陥り、やがて数を減らすようになります。そうなれば餓死した肉食獣をエサにして、またカンジキウサギは爆発的に増えるように−減少傾向から増加傾向へ転換するわけです。増加・現象を10年間隔で切り替えることで、上手く子孫繁栄をコントロールしているのでしょうね。
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